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松山地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 幸田アゲ子

被告 松山税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人等は、被告が昭和二十七年十一月二十五日原告に対する所得税滞納処分としてなした、別紙目録記載の建物の公売を取消す、訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として、原告は別紙目録記載の建物を所有し、該建物において飲食店を営んでいたところ、被告は昭和二十七年六月二日、原告の昭和二十六年度第三期分所得税金二万三千五百八十円を徴収するためこれが滞納処分として、右建物を差押え、同年同月四日その旨の登記をなした。よつて原告は松山税務署の係官と話合の末、右滞納税金を分割払することの諒解を得、同年六月二十日金四千円、同年七月二十三日金五千円、同年八月一日金五千円、合計一万四千円を納入したが、被告は、同年十一月二十五日突如右差押建物を金十五万九千円で公売した。然しなから

(一)  本件差押当時、右建物内には、原告所有の冷蔵庫、テーブル、椅子、たんす、水屋等の動産があり、これらの時価は、合計約三万五千円であるから、当時の滞納税額二万三千五百八十円を徴収するには、右動産を差押え、公売することによつて、充分その目的を達しうるに拘らず、これらの差押をすることなく、時価七十五万円乃至八十万円、公売価額にしても十五万九千円に達する右建物を差押えたものであるから、右差押は、徴収金額を収納するに必要な限度をはるかに超えた処分というべきであつて、違法である。従つて、これに基く公売処分もまた違法たるを免れない。

(二)  仮りに、本件差押が適法であるとしても、租税の滞納処分としての公売は税金その他滞納処分費等の徴収を目的とするものであるから、差押物件中公売に付するものは、右徴収金額を収納するに必要な限度に止むべきであると考えるところ、右建物には、時価三万円相当の畳、建具が備え付けられており、これは、右建物の従物として、当然本件差押の対象となつていたのであるから、右畳、建具を公売しただけで充分、公売当時の原告の滞納税額金九千五百八十円、(延滞金、加算税、滞納処分費等を加えても徴収金額は合計金一万二千七百四十円を収納しうるに拘らず、時価七十五万円乃至八十万円相当の建物と時価三万円相当の右畳、建具を共に公売したことは、滞納処分としての公売の目的を逸脱したものであつて、違法である。

(三)  のみならず、公売に付した建物は二階建であつて、階上と階下とは分割して公売することが可能であり、分割してその一を公売しただけで、充分前記徴収金額を収納して余りあるに拘らず、敢て建物全部を公売に付したものであるから、この点からも本件公売は取消を免れない。

(四)  かりに、右主張が容れられないとするも、被告において徴収金額を収納するに必要な措置を講ずべき誠意さえあれば、高々一万円余りの金額を収納するには、建物を公売に付する以外に他に、適切な措置があつた筈である。にも拘らず、右措置をこうずることなく、右建物を公売に付し、そのため原告は唯一の不動産を失い、精神上、物質上多大の損害を蒙つたのであるから、本件公売処分は、形式上法規に従つているとしても、実質的に法の精神に反し、違法たるを免れない。

よつて、右公売処分の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の答弁に対し、本件建物には、訴外東邦建物無尽株式会社のために抵当権が設定されていたことは認めるが、右は、昭和二十七年四月九日設定されたもので、その担保する債権額は金十三万千百円である。本件差押に際し、原告が、本件建物を差押えられたき旨申出たことはないと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人等は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告請求原因事実のうち、原告が別紙目録記載の建物を有し、該建物で飲食店を営んでいたこと、被告が昭和二十七年六月二日、原告の昭和二十六年度第三期分所得税金二万三千五百八十円を徴収するため、これが滞納処分として、右建物を差押え、同年同月四日差押の登記をなしたこと、その後右滞納税金につき、原告が、同年六月二十日金四千円、同年七月二十三日金五千円、同年八月一日金五千円を夫々納入したこと、被告が同年十一月二十五日右差押建物を金十五万九千円で公売したこと、本件差押当時、右建物内に、原告所有の冷蔵庫、テーブル、椅子、たんす、水屋等の動産があつたこと、右建物に畳、建具が備付けられており、これが従物として差押の対象となつていたこと、右建物につき設定されていた抵当権の内容が原告主張のとおりであることは認めるが、本件公売処分には、原告主張のような違法の瑕疵はない。

すなわち、

(一)  本件差押に当り、被告は、先づ前記冷蔵庫等の動産を差押えようとしたのであるが、原告から、これらの動産を差押えられると原告の営業上支障をきたすから、本件建物を差押えられたい旨の申出があつたので、右建物を差押えたものであり、のみならず、右動産の時価は、原告主張のように高価ではなく、これのみの差押によつては、徴収税額を収納するに足りないからこの点に関する原告の主張は理由がない。

(二)  本件公売建物には、訴外東邦建物無尽株式会社の訴外東寅夫に対する債権を担保するため、抵当権が設定されていたものであり右抵当権の設定契約にあたり、当事者間において本件建物に附属する畳、建具等の従物を主たる建物と分離して別箇の物として扱うことの特別の意思表示があつたことは認められないから、右従物は建物と合して一箇の不動産として扱うを相当とするところ、現行法上不動産の一部を差押乃至公売できる旨の規定はないから本件公売処分にあたり、畳、建具のみを公売しなかつたことを違法とする原告の主張は当らない。仮りに本件の場合、畳、建具のみを分離して公売することが法律上可能であるとしても、右畳、建具の大部分は、規格外のもので、品質も最下等に属するから、畳、建具のみを取外して公売するときは、その価格は、せいぜい金六千円を出でないのであつて、徴収金額金一万二千七百四十円(公売当時の滞納所得税額九千五百八十円、利子税千八百円、延滞加算税千百七十円、滞納処分費百九十円の合算額)を収納するに足りなかつたものであるから、畳、建具のみの公売をなさず、建物と合して一体として公売したことを以て、違法ということはできない。

(三)  前記のように、一箇の不動産の一部を差押乃至公売できることの規定はないのであるから、本件建物の階上又は階下のみを公売しなかつたことをもつて、違法とする原告の主張は理由がない。かりに階上又は階下のみの公売が法律上可能であるとしても、前記のとおり、本件建物は第三者の抵当権の目的物となつていたのであつて、これを分割して、階上又は階下のみを公売することにより、公売する部分及び残存部分のいずれの価格も低落することとなり、その場合、公売代金からの配当額と残存部分の価格との合計は、右抵当権者の債権額に達しないこと必至であつて、その権利を侵害することになるから、そのような公売処分こそ、違法である。よつて、この点に関する原告の主張は、いずれにしても理由がない、なお、前掲(四)の原告主張は否認すると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告が別紙目録記載の建物を所有し、該建物において飲食店を営んでいたところ、被告が昭和二十七年六月二日、原告の昭和二十六年度第三期分所得税金二万三千五百八十円を徴収するため、これが滞納処分として、右建物を差押え、同年同月四日差押の登記をなしたこと、その後、右滞納税金につき原告が同年六月二十日金四千円、同年七月二十三日金五千円、同年八月一日金五千円を夫々納入したこと、被告が同年十一月二十五日右差押建物を金十五万九千円で公売したこと、本件差押当時、右建物内に原告所有の冷蔵庫、テーブル、椅子たんす、水屋等の動産があつたこと、右建物には畳、建具が備えつけられており、これが従物として差押えの対象となつていたこと、右建物には、昭和二十七年四月九日、訴外東邦建物無尽株式会社の訴外東寅夫に対する金十三万千百円の債権を担保するために、右訴外会社のために、低当権が設定されていたこと、本件公売当時の原告の滞納所得税額が金九千五百八十円で、これに延滞加算税、利子税、滞納処分費等を加えて、合計金一万二千百四十円が当時の原告に対する徴収金額であつたことは当事者間に争のないところである。

そこで先づ、原告の前掲(一)の主張について考察するのに、凡そ、租税の滞納処分としての差押乃至公売は、徴収すべき金額を収納するのに必要な限度において、これをなすべきであり、従つて、他にこの必要を充足しうる物件があるのに拘らず、これが差押乃至公売をなさず、その価格が、徴収金額をはるかに超過する物件を差押乃至公売することは違法であるといわなければならない。しかし、これは、納税義務者の権利が不当に侵害されてはならないからであつて若し納税義務者において、自らこの権利を抛棄した場合は、右と別異に解すべきを相当とする。これを本件について見るのに、差押当時の原告の滞納税額は金二万三千五百八十円であり、差押建物の時価は、右建物が金十五万九千円で公売された事実から見ても右税額をはるかに超過するものであつたことは明白であり、当時原告は、右建物以外に、テーブル、椅子等その主張のような動産を所有していたものであるところ、証人中尾美智夫の証言によれば、本件差押に際し、被告の係官が原告に対し、動産類を差押えたき旨告げたところ、原告は右係官に対し机、テーブル等の動産類は営業上必要であるから、その差押を、避けられたき旨の意向を表明したことが認められる。而して、証人東寅夫の証言及び原告本人訊問の結果中、右認定に反する部分は措信しがたい。右動産類及び本件建物(畳、建具を含む)以外に、原告が、差押の対象となりうる物件を所有していることを認むべき資料はないから、右動産類を差押えないときは、畢竟本件建物を差押える外ないと、解すべきであるから、原告の右意向の表明は、結局納税義務者としての前示権利の抛棄をなしたものであると認める外ない。従つて、仮りに、右動産類を差押公売することによつて、右徴収金額を収納するに充分であつたとしても、本件建物の差押を違法ということはできない。よつて、右差押が違法であることを前提として、本件公売処分が違法であるという原告の主張は理由がない。次に、原告の前掲(二)の主張について考察するに、本件建物には差押前より訴外東邦建物無尽株式会社のために抵当権が設定されており且つ、証人東寅夫の証言によると、本件畳、建具は、右抵当権設定当時から本件建物に備付けられていたことが認められるから、右畳、建具にも抵当権の効力が及んでいたものといわなければならない。しかしながらこのことは、右畳、建具が建物と合して一個の不動産となつたことを意味するものでなく、それらは、動産たる性質を変ずることなく、独立して所有権の対象となりうるものであり且つ、右抵当権は昭和二十七年四月九日設定されたものであるから、国税徴収法第三条により、国税に優先しないこと明白であり、従つて、畳、建具のみを建物と別に公売しても、抵当権者の権利を不当に侵害するというわけのものでもないから、本件の場合差押物件中畳、建具のみを公売に付することは法律上可能であると解するを相当とする。従つて、畳、建具のみを公売することによつて、公売当時の徴収金額金一万二千七百四十円を収納するに充分であるとすれば、その時価が右金額をはるかに超過する本件建物を公売したことは違法であると考えられるところ、証人東寅夫の証言、原告本人訊問の結果によれば、本件建物は昭和二十六年十月十七日建築せられ、その際本件畳、建具の購入に金四万円程を要したことを認めうるけれども、一方証人小倉清一の証言によると、そのうち畳は公売当時は相当古びており、そのうち三枚は、取換えざるを得ない状態であつたこと、畳、建具共、普通の規格よりは寸法が小さかつたことが認められ、且一般的に公売価格は一般市価より相当下廻ることが通常の事例であるから、これらの事実に弁論の全趣旨を綜合すると、右畳、建具のみを公売に付した場合、公売価格は、前示徴収金額一万二千七百四十円をかなり下廻るものと認めるのが相当である。従つて、原告の前掲(二)の主張も結局理由がない。

次に原告の前掲(三)の主張について考えてみるのに、およそ独立して所有権の対象となりえない物は、独立して公売の目的となりえないと考えられるところ、建物の階上、又は階下は夫々不動産たる建物の構成部分であるから、所有者が事実上これを区分し、その区分せられた部分のみで、独立の建物と同一の経済上の効用を完うすることのできる所謂区分所有権の対象となりうる等の特別の事情の認められる場合以外は、独立して所有権の目的となりえないものであると解すべきであるから、右のような特別の事情の認められない本件においては、本件建物のうち、階上又は階下のみを、公売に付することは許されないと解するのを相当とする。従つて階上又は階下のみを公売に付することが可能であることを前提とする原告の右主張は理由がない。

最後に、原告の前掲(四)の主張について考えるのに、証人小倉清一の証言によると、本件差押後、昭和二十七年七月二十四、五日頃、原告は本件建物を右証人に賃貸し、且つ、同人に対し、税務署の係官が訪ねて来ても、原告の行先は不明であるとして、住所を知らせないように依頼して他に転居したこと、本件公売処分前、被告の係官が本件建物に原告を訪ねたが、同人は原告の右依頼に応じて、右係官に対して原告の住所を知らせなかつたことが認められる。原告本人訊問の結果中右認定に反する部分は措信しがたい。而して、かりに本件滞納税額の収納につき被告としては、建物の公売等の手段をとることなく、原告に対し滞納税金の督促その他の措置をこうずべきであつたとしても、右認定のように原告の住所が分明でない以上、右措置をこうずることは、困難であると考えられるのみならず、右認定の事実から見れば、被告が如上の措置をとりえないような事態を原告自身が惹起したものと認めざるを得ないから、被告が適切な措置をこうじないことが実質的に法の精神に反する違法があるという原告の主張は全く理由がない。

されば、如上判示のとおり、原告の主張する本件公売処分の違法原因はいずれも採用し難いから、該公売処分は結局適法といわなければならない。従つて、原告の請求は理由がないから、これを棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 荻田健治郎)

(別紙目録省略)

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